東京から肺がんをなくす会
(ALCA)

Supporting Your life long Health Promotion

ALCAのあゆみ

「東京から肺がんをなくす会」(Anti-Lung Cancer Association : ALCA)は、肺がんを早期に発見することで皆さまの健康を守るため、東京都予防医学協会(本会)と国立がんセンター(当時)の専門医が協力して、X線と喀痰細胞診による検診を行う組織として1975年に誕生しました。発足当初は、喀痰細胞診で発見される「肺門部早期がん」が増加することが予想されていましたが、日本ではむしろX線で発見できる「肺野末梢の肺がん」が増加してきました。
1980年代後半から、末梢の肺がんの早期発見にはX線よりもCTの方が優れていることがわかってきましたが、当初は撮影時間が長く、放射線の被曝量も多く、費用が高いことなどで検診には現実的に利用できないと思われていました。しかし、その後の技術的な進歩で撮影時間も短縮し、被ばく量も下げることが可能になりこれらの問題が解決されました。そこで、1993年にALCAの検診項目に世界で最初に低線量CTを導入、その後コンピュータでの診断支援や、マルチスライスCTなどを追加導入し、常に最先端の技術で高精度な検診を提供してきました。

本会のCT導入前後での検診の成績を国際的に報告したところ、反響が大きく、国内外で肺がん検診へのCT導入が進み、その効果に関する研究も始まりました。米国で行われた大規模な無作為化比較試験(NLST)ではX線での検診群に比べCT検診群では肺がん死亡が20%減少することが証明され、日立市で行われた研究では、検診へのCT導入後5年目から肺がん死亡率が全国平均に比べ25%程度低下することも証明されました。またALCAのデータについても、統計的に分析することにより肺がん死亡率減少効果が明らかであることも証明されました。

一方、高齢化に伴い、さまざまな種類の肺炎も増えており、死亡原因でも「がん」「心臓病」に続き肺炎は3位になっています。また、肺がん以上に喫煙との関連の強い「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」も増えています。したがって会員の健康を守るためには肺がんだけでなく、肺炎やCOPDなど呼吸器疾患を総合的に予防することが必要と考え、その診断のため、2014年4月からは呼吸機能検査、CTでの肺気腫部分の占める割合の測定、喫煙量を推定するスモーカライザーや痰の細菌検査も加えました。 最先端の医療技術を用いた検診とともに、適切な健康指導や治療によって皆様の肺と命を守る「東京から肺がんをなくす会」は、最も伝統と実績のある「肺専門ドック」です。
今後もこの伝統の灯を絶やすことのないように活動に取り組んでまいります。
詳細につきましては、本会ホームページに掲載されている「年報」の「東京から肺がんをなくす会」の項目をご覧ください。

東京から肺がんをなくす会

低線量ヘリカルCTの導入直後は、体を頭側から足側に向かい1センチごとに撮影していましたので、1人の検査で30枚前後の画像が発生しましたが、その後装置の進歩で1ミリ以下の厚みと間隔で撮影できるようになりました。
本会で行っている通常の人間ドックでは「5ミリの撮影」を行っていますが、ALCAではより精密な画像診断をするために「1ミリの撮影」を行っており、1人の検査をすると300枚以上の画像診断をしなくてはなりません。そこでALCAでは徳島大学工学部と共同研究を行い、コンピュータでの診断支援システム(CADシステム)を開発して、読影に利用しています。
このシステムに掛けると、異常な変化(異常影)があると、コンピュータがマークをつけて警告音も発するようになっているので、微小な病巣や淡い陰影も見過ごすことなく指摘することができるようになりました。
また、CADシステムを使って肺気腫の部分が、肺全体の体積の何%を占めているかを計算する機能も同時に開発しています。肺気腫の存在はCT画像でも認めることはできますが、このシステムにより肺気腫の割合を具体的に数字で表すことができ、病気の進行の程度も診断が可能になりました。
このようにALCAでは常に最新の技術を取り入れつつ、世界でも最も精度の高い呼吸器の検診を提供しています。

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CADシステムを用いた実際の読影画面
肺がんの疑いのある部分には赤い印がつき、青い円でかこまれている。
肺気腫のある部分は緑色で表示している。

肺の病気で亡くならないために

グラフは2016年度の日本人の死亡原因の割合です。悪性新生物(がん)が1位になっており28.5%、がんの中では臓器別にみると肺がんが最も多く全体の5.6%と、がんの中の1位になっています。全体の2位は心筋梗塞などの心疾患の15.1%、3位は肺炎で9.1%、4位は脳血管障害8.4%です。最近まで脳血管障害が3位でしたが肺炎の増加が大きく、23年に入れ替わりました。一方COPDによる死亡も1.2%でこれも最近増加が著しくなっています。これら、肺がん、肺炎およびCOPDを合計すると、亡くなる方の14.9%は肺の病気が原因で、これは臓器別にみると心疾患と同等に多いことがわかります。つまり、健康で長生きするためには呼吸器の病気の予防と早期発見・早期治療が重要ということが明らかです。
特に肺がんは進行するまで自覚症状が出にくいので、亡くならないようにするには無症状のうちに検診で早期に発見し、確実に治療することが必要です。
COPDは、タバコの煙などにより肺全体が徐々に破壊されていくために、炎症を起こしやすく、肺炎で亡くなる多くの方の間接的な原因にもなっています。息切れ等の症状が初期から出ますが、ほとんどが喫煙者なのでタバコのせいかと思って油断しているうちに病状が進みます。破壊された肺はもとには戻りません。しかし、禁煙や、吸入薬で進行を抑えることもできますので、やはり早期発見が重要です。
またCOPDの方は肺炎などにも罹りやすくなり、軽い肺炎でも命に係わることも少なくありません。さらに高齢になり免疫力などが低下し、治ったように見えていても、若いころ罹った結核が再燃することもあります。COPDの方や以前結核の治療をした方などは、結核を含めた肺炎の早期発見も重要です。

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低線量CTの導入による生存率の上昇効果

検診は単に多くの患者さんを見つけるだけでなく、早期の状態で発見することが重要です。ALCAでのCT導入前後での肺がん発見率や、発見した肺がんの中で比較的早期のI期の占める率などを比較したのが下の表です。CT導入後に肺がんの発見率は2倍以上高くなり、CTで発見された肺がん125例中X線でも異常が指摘できるのは27例に過ぎず、他の90例はCTがなければ見つけることはできませんでした。さらに、発見肺がんの中でI期と呼ばれる、病巣が肺の中だけにとどまる比較的早い時期のがんが、CT導入前は51.2%だったのがCT導入後には83.2%と極めて高くなっています。
また、下の右のグラフは発見された肺がん患者さんが治療後どのくらいお元気でいらっしゃるかを調べたものです。CT導入前には5年後にお元気でいらっしゃる率はほぼ50%でしたが、CT導入後には約80%と明らかに上昇しています。

「東京から肺がんをなくす会」の成績

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発見された代表的な病変の画像

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ALCAでのCTの撮影について

CTとはX線を出すX線管球が体の周りを回転しながら体の断面を撮影する装置です。現在用いられているのは、人体を連続的に水平移動させながら、らせん状にリンゴの皮をむくように撮影する装置で、これを「ヘリカルCT」と呼びます。また1回転で複数の断面を撮影できるようになり、これを「マルチスライスCT」と呼んでおります。
ALCAで撮影しているCTは、1回転0.5秒で、1回転で最大16断面の撮影が可能な、マルチスライス、ヘリカルCTです。
一方、CT装置の普及に伴い、撮影時の放射線被ばくが問題になっています。新聞などで報道されている、被ばく量として、胸部のX線撮影が0.06ミリシーベルトに対し、胸部CTは8ミリシーベルトと、100倍以上CT撮影は多いとされていますが、これはあくまでも病院などで行う通常線量撮影の場合で、ALCAの撮影はその約1/10以下の「低線量撮影」です。
線量を多くすると高画質の画像を撮影することができますが、放射線の被ばく量が増えます。したがって、すでに存在がわかっている病変に対して精密な診断をする場合には、十分な線量の画像が必要です。しかし健康人を対象にする場合は、病気があるのかないのかを判断するのが目的ですので、できる限り被ばく量を少なくすることが大切です。
我々はCTでの肺がん検診を始めるに当たり、どこまで被ばく量を下げることが可能か研究を行いました。その結果、通常線量の10分の1程度にしても病変を発見する能力には差がでないことが証明されました。また、一方で放射線の被ばくとそれによる発がんのリスクなどの比較の研究から、この条件で撮影すれば40歳以上では肺がんを早期に発見するメリットの方がリスクを上回ることも証明されました。このような研究をもとにALCAの撮影条件が決められ低線量CT撮影の検診が実現し、現在に至っております。
その後、CTの機種は改良され更新してきましたが、この「ALCA独自の低被ばく量」を超えないような条件の中で画質のさらなる向上を目指しております。CT検診の研究を行っている「日本CT検診学会」では、肺がんCT検診のガイドラインを作成していますが、ALCAでの撮影方法がその基準になっており、常に全国のCT検診の模範となっています。